インターネットがいかれました。
日に日に症状が二転三転して、今は私のPCのみ使えません(怒)
内蔵無線LANがいかれたか、何か設定が悪いのか……
それでも居間でSSを書くオタク(笑)
従兄弟の子は近々お披露目予定です。
損な役回りだなあ、と俺はつくづく思った。まったくもって、それは損以外の何物でもなかった。ついうっかり奴らと同じ高校に入ってしまったのが運の尽きだ。おかげで俺の母親ときたら、自分の妹――つまり奴らの母親宛てのプレゼントとやらを俺に託したのだ。彼女が仕事で普段家にいないのを知っておきながら。
直接送ればいいだろうと俺は盛んに抗議したが、それはあっさり却下された。郵送代がもったいないとのことらしい。
おかげで俺は、会いたくも無い三人の従兄弟たちに自分から会いに行き、案の定サラウンドで嫌味を言われる羽目になった。しかも奴らときたら、荷物を受け取らないのだ。まったく、最悪もいいところだ。
こうなったら帰りに直接奴らの家に行ってやろうか、と無謀なことを考え始めたその時、俺はふと名案を思いついて踵を返した。……俺と同い年の、性格最悪の三人の従兄弟たち。その三兄弟にはたしか、おまけがいた。
教室、廊下、購買、中庭。俺は昼休み中駆けずり回ったがしかし、目的の奴には全然会えなかった。同じクラスの奴に聞いてもみたが、誰一人行方を知りやしない。一体どういう学校生活を送ってるんだと俺がいぶかしみ始めたその時、その声は突然天から降ってきた。
「……何してるんだい、君」
「へ?」
間抜けな顔で俺は天を振り仰ぐ。
「あーっ! いたー!」
「は? 僕?」
屋上へと続く階段の踊り場で、そいつは首をかしげた。……そいつが目的の、三兄弟のさらにおまけ。末っ子のイシトだった。
「は、じゃねえよ! 俺がどんだけ探し回ったと思ってんだ!」
「さあ。三回ぐらい通過したのは見てたけどね」
「見てたぁ!? なんて薄情な奴なんだ、お前!」
「だってまさか僕を探してるなんて思わなかったんだよ」
まったく悪びれずにそう言うと、イシトは食べかけのパンをビニール袋につっこんだ。……三人ほどではないが、大概こいつも苦手な部類だ。何を考えているかちっともわからない。
「お前ひょっとして、いつもこんなところで一人で飯食ってんの?」
「そうだよ。教室はうるさくてね」
全く表情を変えずに、イシトはさらりとまた流す。その目が、目的は一体何なんだとありありと語っていた。やや迷惑そうに見えたのはきっと俺の勘違いではないだろう。
だから俺は、さっさと本題に入るべく手に持っていた袋を突き出した。
「これ、俺の親から。お前ん家に」
「僕の…? 父に渡せばいいのかい?」
「いや、ソフィア叔母さんに」
それを聞くなり、イシトは目をすっと細めた。
「……ソフィーに?」
「そーだよ。クリスマスプレゼントだとさ」
「それなら直接イギリスに送りなよ」
家にはいないんだからさ、とイシトの心の声が聞こえたような気がして、俺は焦った。
「送るのが面倒なんだとさ。それにクリスマスなんだから、もうじき帰ってくんだろ?」
「帰ってこないよ」
その声はやけにきっぱりと聞こえてきて、俺は思わずイシトを振り仰ぐ。……その瞬間、言わなければよかったと後悔した。
「彼女は帰ってこないよ。クリスマスだろうが正月だろうが誕生日だろうが」
ちり、と前髪を焦がされたような感覚が俺の全身を走る。イシトはというと、珍しくはっきりと眉間に皺を寄せていた。
「え、えっと、その……」
それも一瞬のことだった。思わず立ち尽くした俺を見てイシトはふっと我に返ったらしく、曖昧な笑みを浮かべた。
「帰って、こないと思うよ」
「えっと…でも…」
「まあそれじゃ君も伯母さんも困るだろうから、父に預けるよ。それでいいかい?」
「ああ、うん。サンキュー」
その言葉に呪縛が解かれ、俺はようやく階段を上ってイシトに近づく。イシトはというと相変わらず笑みを貼りつかせながら、手を伸ばして袋を受け取った。
「あーよかった。お前まで受け取ってくれなかったらどうしようかと思ったぜ」
「僕まで?」
小さく首をかしげたイシトは、すぐに苦笑いを浮かべた。
「馬鹿だなあ。あっちに先に行くなんて。正気の沙汰じゃないよ」
「うん。今度からはまっすぐお前の方に来るよ」
「それはやめて。面倒くさい」
「あのな……」
同じく俺は苦笑いを浮かべて、それじゃよろしくと踵を返す。そして階段を下りて、ふと足を止めた。
「えっと……」
振り返ってみればイシトは案の定じっと俺を見下ろしていて、俺は思わず言いよどんでしまう。
「えっと、その……なんだ」
「まだ何かあるのかい?」
「その……」
すっかり気圧された俺は、更に言いよどむ。……がしかし、意を決して口を開いた。何だか、聞いておかなければならないような気がして。
「その……お前、寂しくねえの?」
また、すっとイシトの目が細くなる。が、俺は負けずに見返した。……ほとんどにらみ合いだ。
「……それはないね」
やがてイシトはふっと笑って答えた。
「本当かよ?」
「うん、本当だよ。父もいるし。それに……」
にっこりととってつけたような笑みを浮かべて、イシトはごくさらりと言った。
「僕、期待してないから」
「高望みすると、それが叶わなかった時大変だからね。あんまりしない方がいいんだよ」
絶句した俺を尻目に、イシトは、君も覚えておくといいよとだけ言った。そして階段の上からひらひらと手を振った。……それっきりだった。
それっきり、俺が学校でイシトを見かけたことはなかった。聞けばそれから一月ほどして、あいつは魔法学校の招待を受けてそっちに行ってしまったらしい。何の頼りもないというが、俺は心配していない。心配するほど仲がよかったわけでもないし、そんなタマでもないと思っている。……高望みはしないと平然と言ってのけたイシト。子供が親に会いたがるのは、高望みではないはずなのだが。
だからなんとなく、本当になんとなく、俺は思う。あの何を考えているかわからない鉄面皮が、母親のことを彼女と言うイシトが、少しぐらい高望みできればいい。そう思えるような世界が、あいつの先に広がっていればいいと。